第1章 少年と水

私は九州の大分県、別府という町で生まれた。 

海と山に囲まれ、 
湯けむりが立ちのぼる温泉の町である。 

家の近くには海があり、 
少し歩けば川があり、 
町のあちらこちらから温泉の湯気が上がっていた。 

子どものころの私は、あまり丈夫ではなかった。 

小児喘息を持っていて、 
夜になると息が苦しくなり、 
何度も命の危険を感じたことがある。 

そのたびに祖母がそばにいてくれた。 

祖母は優しく、そしてとても強い人だった。 
私が苦しそうに息をする夜、 
静かに隣に座り、背中をさすってくれた。 

母は明るく勝気な人だった。 
人生の中で何度か結婚をしたが、 
私には父の記憶がほとんどない。 

私は二つ年上の姉とともに 
祖母の家で育てられた。 

家には十歳年上の叔父もいた。 
とても頭が良く、優しい人だった。 

祖母の家は決して裕福ではなかったが、 
姉と私にはそれぞれ小さな部屋が与えられていた。 

学校の成績は普通だった。 

体育はいつも「1」。 
音楽も「1」。 
図画も「1」。 

けれど不思議なことに 
理科や社会の一部だけは 
とても良い成績をもらうことがあった。 

そんな少年だった。 

私の一番の遊びは魚釣りだった。 

休みの日になると 
釣り竿を持って出かける。 

海へ行き、 
川へ行き、 
池へ行く。 

気がつくと 
水のある場所へ足が向いていた。 

ある日、メバルが釣れた。 

それを持って帰ると、 
祖母がとても喜んだ。 

その笑顔を今でも覚えている。 

家のお風呂は温泉だった。 

普通の水ではなく、 
地の奥から湧き上がる温泉の水。 

子どものころの私は 
それが特別なものだとは思っていなかった。 

ただ、いつも水が身近にあった。 

温泉の水。 
海の水。 
川の水。 
池の水。 

そして魚の泳ぐ水。 

私は水族館へ行くのも好きだった。 
魚が泳ぐ水槽をいつまでも眺めていた。 

水の中を静かに泳ぐ魚たち。 

その光景が 
なぜかとても好きだった。 

今思えば、 
あのころから私は 
水に惹かれていたのかもしれない。 

そして人生を振り返ると 
気づくことがある。 

少年のころ 
ただ夢中で眺めていた水。 

温泉の水。 
海の水。 
川の水。 

その水が 
いつのまにか 
私の人生の仕事になっていた。 

しかし—— 

あのころの少年は 
まだ知らない。 

魚を追いかけ 
釣り糸を垂らしていたその水が 

やがて 
自分の人生を導く 
大きな流れになることを。 

水は 
静かに流れていた。 

そしてその流れは 
まだ見えない未来へと 
続いていたのである。 

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