第2章 弱い少年の世界

子どものころの私は、体がとても弱い少年だった。
小児喘息を持っていて、夜になると突然呼吸が苦しくなることがあった。
胸が締めつけられるようになり、息を吸うことができなくなる。
そんな夜が、何度もあった。
苦しくて眠れない夜、祖母がいつもそばにいてくれた。
静かに背中をさすりながら、
「大丈夫よ」
と、優しく声をかけてくれる。
その手のぬくもりは、今でも覚えている。
私にとって祖母は、ただの家族ではなかった。
命を守ってくれる存在のように感じていた。
母は明るく、行動力のある人だった。
しかし仕事や生活の事情もあり、私は姉とともに祖母の家で育てられることになった。
父の記憶はほとんどない。
けれど子どものころの私は、それを特別寂しいとは思わなかった。
祖母がいて、姉がいて、家族のぬくもりがそこにあったからだ。
祖母の家には、十歳年上の叔父も一緒に暮らしていた。
とても頭の良い人で、優しく、私たちの面倒もよく見てくれた。
家は決して裕福ではなかった。
けれど祖母は、姉と私にそれぞれ小さな部屋を用意してくれていた。
学校では、特別できる子でもなかった。
体育はいつも「1」。
音楽も「1」。
図画も「1」。
体も弱く、運動も得意ではなかった。
けれど不思議なことに、理科や社会の一部だけは良い成績をもらうことがあった。
水や自然、魚や生き物のことになると、なぜか興味が湧いたのだ。
休みの日になると、私は釣り竿を持って出かけた。
海へ行き、
川へ行き、
池へ行く。
水のある場所へ行くと、なぜか心が落ち着いた。
弱い体を持った少年だったが、
水のそばにいるときだけは、元気になれる気がした。
海を眺める。
川の流れを見る。
魚が泳ぐ姿を見ている。
そんな時間が、私はとても好きだった。
今振り返ると、あの頃の私は
自然に助けられていたのかもしれない。
苦しい夜があり、弱い体を抱えながらも、
海や川のそばに立つと、心が静かになった。
水の流れは、いつも変わらずそこにあった。
そしてその水は、
まだ何も知らない少年を、静かに包み込んでくれていたのである。



